昼休み、職場のブス達が集まって雑誌を読んでいました。

パワースポットの特集をやっていたみたいで、「今度みんなで行こうよー!」とか「マイナスイオンに癒されたーい!」とか「ここに行けば恋愛運アップ間違いない!」とかデカイ声でブヒブヒと騒いでいました。

お前らそんなに元気ならパワースポット行く必要ねーじゃねぇーか。


「悩む」という概念は、無数の生物の中で人間にだけ存在している。

故に人は悩みながら生きている。
突き付けられた難題と共存していると言っても過言ではない。
悩みのない人間なんてこの世にいないのではないだろうか。

社会人は職場の人間関係に、主婦は夫の浮気に、学生は今後の進路に、同僚の遠藤君にしたって包茎で悩んでいる。
こんなの手術すれば簡単に解決するじゃないかと思うかもしれないが、クリニックに行く勇気が無いから悩んでいるのである。

人は誰でも悩みを抱えているものだ。



先日、お昼休みに喫茶店に行きましてね。
適当にお腹を満たせるものとウィンナーコーヒーを注文したんです。
で、ウィンナーコーヒーにウィンナーじゃなくて魚肉ソーセージが付いてきたらどうしよう、とか色々と間違った事を思いながら運ばれてくるのを首を長くして待っていたんです。
それはもうジェラシックパークに出てくる木の上の方に生えている葉っぱを食べている恐竜くらい首を長くして待っていたんですけど、自分の隣のテーブルには見るからに頭がクルクルパーな女が二人座っていまして。
どれくらいクルクルパーかと言うと、「現職の総理は誰ですか?」って質問をしたら「村山富市!」とか言い出しそうなくらいクルクルパーな感じでしてね。

テーブルがそこまで離れているわけではないので、この二人の会話がこちらの席まで聞こえてくるんです。
そしたら恋愛相談というんですか、付き合っている男の話をしていました。

悩みを相談している方の女性は琴奨菊に似ているブスで、もう初場所で横綱の白鵬をも圧倒するくらいのレベルのブスで、まあ恋愛相談以前にお前に彼氏がいる事が驚きだよドスコイ!って思ってしまったんですけどそれは置いておくとして、どうやら彼氏が浮気をしているらしいんです。

「この前ジュンヤに電話したら女の声がしたんだけど。」

ありがちなパターンですね。
まあこれだけでは浮気と断定するには不十分ですが、それでもやはり不安になりますよね。
分かりますよ、その気持ち。
琴奨菊みたいなブスは続けて話します。

「てゆーか最近は忙しいって言って会ってくんないのに、パリピと泊まりで海に行くって言ってるし。」

会話の流れから察するに、パリピってたぶんサークルの仲間とかそんなのだと思います。
これは疑わしい材料が出てきましたね。
それ絶対浮気していますよ、琴奨菊さん!
さらに琴奨菊みたいなブスは上手投げでテーブルを引っくり返しそうな顔をしながらドドスコと話を続けます。

「ぶっちゃけ冷めちゃうよね。もう別れちゃおっかな・・・」

おいおいおい!
まだ早いんじゃないですかね!
焦る事は無い、ちゃんとジュンヤ君と話し合って問題を解決した方が良いですよ。
君たちの絆はそんな脆弱なものではないはずだ!
とか思いながら心の中で琴奨菊を応援していたらですね、もう片方のアマゾンの秘境にいる原住民みたいな化粧をしたブスがこう返したんです。

「それマジ別れた方が良くねぇ~?」

「えっ!?」

原住民のブスの言葉に琴奨菊みたいなブスが少し驚いた表情になる。

「・・・でも~、ジュンヤ超優しいし~、てゆーかうちの親とも顔見知りだし~・・・」

ジュンヤ君優しい子なのか、良かったじゃないか。
今は気持ちがすれ違っているかもしれないけれど、きっと元の楽しかった関係に戻れるさ。
頑張れ!琴奨菊!
ドスコイ!!

そしたら原住民みたいなブスがですね、

「そんなの関係なくねぇ?メンディーじゃねぇ?」

てめぇー空気読めよブス!!
原住民みたいなブスはジュンヤ君と別れる事を強く勧めてきます。
しかし、やはり琴奨菊はその意見に消極的なようで、相談の途中なのに髪の毛を指でクルクルしちゃったりしています。
お前もちゃんと相手の話を聞けよな!
あとメンディーって面倒くさいという意味らしいです。

別れる事を勧めるブスに対し琴奨菊も、

「でも~、やっぱ別れるのは~、まだ早いっぽいってゆーか~・・・」

と一歩も譲らず、こんな押し問答がずっと続いていました。



とまあ、こんな会話が聞こえてきたんですけどね、琴奨菊みたいなブスは自分から別れちゃおうかなと言い出したくせに別れる気なんて初めから微塵も無いんですよ。
だから原住民みたいなブスの助言に頑なに反対しているんです。
もう途中から恋愛相談でも何でもなくなっていました。
答えが出ているんだったら相談する必要ねーじゃねぇーか。
横から親身になって聞いて損したわ。

結局のところ、悩み事って人に話している時点で既に自分の中では答えが決まっているものなんです。
相談相手に助言や意見を求めているのではなく、自分の出した答えの同意を求めているだけなんです。

自分の判断に対する同意が欲しいだけで、それ以外の助言や意見は一切認めない。
一方的に話して相手から同意を奪い取ろうとする。

これはもうね、同意強盗と呼ばざるを得ませんよ。

こんな相談をされてしまったら何ともメンディーですね。
あとあまり関係ないけどメンディーって言葉少し気に入っちゃいました。



まあしかし、考えてみたら自分も以前同じような経験をした事がありました。
運ばれてきたコーヒーを啜りながら、そんなあの日の出来事を思い出す。

以前、職場に山崎さんという上司がいましてね。
この人は体格が良いから一見怖そうに見えるんですけど、気さくで優しい人なんです。
そんな山崎さんとエレベーターで一緒になった時、突然デリケートな相談をされまして。

「カツラを作ろうと思ってるんだけどどう思う?」

知らねぇーよ!
確かに山崎さんは頭が爆撃機に空爆された後みたいになっていて、それこそ不毛地帯になっているんですけど、何で自分がこんなヘビーな相談を受けなきゃいけないんだよ。

この人って冗談が好きだからふざけているだけだとも思ったんですけど、しかし真面目な相談かもしれないじゃないですか。
そうすると、こちらが冗談だと勘違いして、ラップ音に乗りながら「悩み~♪無用~♪Yeahー♪」と松崎しげるみたいに歌っちゃったりしたら激怒すると思うんです。
もう目的の階に到着するまでに殴る蹴るの暴行を受けて半殺しにされるだろうと思ったんです。
なので無難に、

「最近はオシャレで着けている人もいるようなのでアリじゃないですか。」

と答えておきました。
というかこんなの絶対冗談で言ってきてるだろ。
しかし、山崎さんは、

「でもさ~、調べてみたんだけど本体の他にも定期的に専門の散髪しなきゃいけないし、長期的にみると結構金が掛かるんだよね。」

と、なんか本気で悩んでるような事を言ってきましてね。
目的の階に着きエレベーターを降りても会話は続く。

「いくらくらいするんですか?」

「実際に使ってる人のブログとか見て調べたんだけど、多い人は500万近く掛かってた。」

えっ、何!
ヅラってそんな高いの!?
いや、高いだろうとは思っていたけど、500万もすんの!?
500万って言ったら新車のBMWが買えちゃうじゃねぇーか!
もう頭の上にBMWが乗っているようなものですよ!

「500万はちょっと高過ぎるんじゃないですかね・・・?」

「そうなんだけどローンも組めるとやっぱ悩んじゃうよね。」

絶対やめとけって!
昔、バイト先に松井君という友達がいたんですけど、松井君は車が大好きでローンを組んで180SXというドリフト仕様に改造されまくった車を買ったんです。
そして、近くの工業地帯が週末の深夜になるとドリフト族が集まる有名な場所になっていたんですけど、そこで大クラッシュをしましてね。
買ってから半年も経っていないのに車は全損ですよ。
残ったローンだけ支払い続けるという悲惨な状況になって、ドリフトだけに人生的にもスピンしちゃっていました。

ヅラだって外を歩いていたら突然カラスに奪われるという予期せぬクラッシュをする可能性があるじゃないですか。
そうしたら頭が全損になってローンだけ支払い続けなきゃいけないんですよ。
いや、カラスはない、流石にこれはヅラだけに盛ってしまったかもしれませんけど、しかしローンを組んで購入するのはリスクが高い気がするんです。

まあでも、本人が納得するのなら少々高い買い物だけどこれはこれで良いのかもしれません。
お金の使い道や価値観なんて人それぞれですからね。
自分だってくだらない物を買ってしまったり、変な事にお金を注ぎ込んでしまった事が多々あるけれど、それに比べたら山崎さんの方が余程真っ当な使い道だと思う。
高額だけどそれほどの価値があると思います。
なので、

「良いと思いますよ!自分は賛成です!」

と、アシストする意見を述べました。
しかしですね、山崎さんは、

「でもさー、作ったら作ったで色々面倒くさいよねー、やっぱやめようかなー。そもそも俺そこまで薄くないよね???」

と話を根底から覆す事を言ってきましてね。
初めからヅラ作る気無いんかい!
この後も話は続いたけど、ヅラを作る事からハゲていないという事に議題がすり替わっていきました。

そして自分は目線を上にやりながら「まだ大丈夫です。」と励ましの言葉を贈るのでした。
結局、ハゲていないという同意をさせられて相談は終わった。
その後、山崎さんはヅラを作る事なく転勤になりました。

やはり悩み事というのは人に話している時点で既に自分の中では答えが決まっているものなんです。
相談相手に助言や意見を求めているのではなく、自分の出した答えの同意が欲しいだけなんです。
琴奨菊みたいなブスは彼氏と別れないという結論に、上司の山崎さんはまだハゲていないという結論に、相談相手を同意させて仲間を増やしたいのです。

同意強盗というのは何処にでもいるし、誰でもなってしまう可能性がある。
あなたの周りにもこんなメンディーな人がいるはずです。



とまあ、喫茶店でブスたちの話を聞いたり昔のヅラ話を思い出したりしながらお昼を食べていたんですけど、気付いたら休み時間がギリギリになっていましてね。
ブスの会話が面白かったし、少しくつろぎ過ぎちゃったわ。
今からダッシュで戻ったってどう考えても間に合わねぇーよ、どうすんのこれ。

で、職場に戻ると上司が鬼の形相で鎮座しておりましてね。
早速、いつも説教する時に使われている備品室に連れていかれてこっ酷く怒られました。
あとなんか女子たちから管理人さんにヤラシイ目で見られたとかいう話が上がっているみたいで、全く身に覚えのないセクハラでも怒られました。

セクハラなんてするわけないだろ!
そもそもブスしかいねーじゃねぇーか!
こっちから願い下げだよ!

また今日も怒られてしまった。
時間を守れないなんて社会人として失格ですね。
これは流石に落ち込みます。

すっかり意気消沈してしまったので、その日はそれから2~3回しか会った事のない親戚のお葬式みたいな顔になっていたんですけど、そしたらそんな自分の様子を心配してくれたのか、小林君が声を掛けてくれましてね。

「管理人さん元気ないっすね?どうしたんすか?」

君はなんて優しい人間なんだ。
いつも失敗ばかりする駄目な先輩を心配してくれるなんて。
小林君みたいな後輩を持てて本当に良かったよ、ありがとう。
小林君ならこんな愚鈍な先輩の悩みでもきっと親身になって聞いてくれるはずだ。

「また上司から怒られちゃってさ。いつも怒られるわ女子からは白い目で見られるわ、俺ってホント駄目な人間だよね。生きてる価値も無いよね。もう死んじゃおうかな・・・」

「そうっすね、死んだ方がいいっすよ、お疲れっした。」

「えっ!?ちょっ、待っ!?」


やはり人というのは自分の求める意見しか認めない、メンディーな生き物だ。

当ブログ内容の無断転載を固く禁止します