人は誰だって仮面を被って生きている。

親しい友人はもしかしたらあなたを騙そうとしているかもしれない。
信用している恋人は浮気をしているかもしれない。
いつも挨拶を交わす隣人は極悪人かもしれない。

仮面の裏に隠された本当の姿を知る事は出来ない。


とまあ、何お前ストーリーテラーみたいに語り出してんだよ死ねよカスって話なんですけど、やっぱり人って誰でも仮面を被って生きていると思うんです。

以前、職場に宮本さんという人がいましてね。
宮本さんは中途半端な時期に入社してきたオジさんでした。

頭髪には少し白髪が混じり、そこそこ年期の入った容姿をしています。
そして、新しい職場なのに物怖じせず初日からドッシリと構えていました。

自分はこれに違和感を覚えましてね。
大抵の場合、新しい職場や環境だと少しくらいは物怖じするじゃないですか。
しかし、宮本さんからはそれが全く感じられないんです。
それに、オーラと言うか装いと言うか、宮本さんから出ているのはお偉いさんのそれなんですよ。

何か腑に落ちない。

ここで自分は宮本さんについて考えてみたんです。
この人は一体何者なのだろうか。
得られる情報を精査し、脳内で様々なパターンを想定します。


遥か彼方の銀河系で・・・

ジェダイの騎士と銀河共和国が滅亡して久しい時代。
平和だった銀河系は帝国軍によって支配されていた。

ジェダイの騎士の生き残りであるミヤ=モト・ケノービは帝国軍を討伐するための準備を進めていた。
そして、強力なフォースを自在に使いこなす優秀な戦士を発見する。
ミヤ=モト・ケノービはその戦士を仲間にするべく彼の職場へと潜入するのであった。


とまあ、その戦士こそが管理人さんなわけで、何かいきなり神々しく輝く剣を渡されて「ダース・ベイダーを倒してくれ。」とか言われちゃったらどうしようとか思ったんですけど、ミヤ=モト・ケノービって何?
コイツまた意味の分からない妄想が始まったよ!
こんな妄想ばかりしてないで仕事しろよな!
もう死ねばいいのに!暗黒面に墜ちて死ね!

まあ管理人さんが銀河の命運を握っているなんて銀河の価値はどれだけ低いんだよって事になるので、宮本さんがジェダイの騎士というのはないと思うんですけど、真面目な話、この人には腑に落ちない点がいくつもあったので真剣に考えてみたんです。
そして、ある結論に至りました。

「宮本さんは本部の査察なのではないだろうか。」

いやね、企業のお偉いさんが職場を査察するために身分を隠して潜入してくるというのを聞いた事があるんですよ。
自分の職場にも通常の査察はあるんですけど、いつも査察の人がやってくると直ぐに仲間内で情報伝達が行われて皆普段とは別人のようにテキパキと働くから全く意味を成していないんです。
後輩の遠藤君なんていつも死んだ魚のような目をしているのに、それこそ釣りたてのサバみたいに急にピチピチと活気よく働き出しますからね。
なんか顔も魚みたいだし。

なので、本来の様子を探るためにお偉いさんが仮面を被って潜入してきた疑いが非常に強いのです。
というかもうこれ100000000%査察ですよ。
で、サボっている人間を見つけてクビにするに決まっているんです。
こりゃあ油断が出来ません。

自分の職場ってわりと自由度が高いので普段は上司の監視はあまり厳しくないんです。
定時になると牢屋の前に横一列に整列させられて、端の人から順番に「1!!」「2!!」「3!!」「4!!」と監視役の監守さんに点呼をとらされたりとかもしないんです。

なので、トイレに行った帰りに休憩スペースの自販機でコーヒーを飲んで休むという、それこそ仕事からのプリズンブレイクをしたりも出来るんです。
ただ、これってサボりになるわけですよ。
自分はよく休憩スペースで鼻くそをほじったりして現実社会から逃亡しているんですけど、潜入の宮本さんが来てからは真面目に働くようになりました。
サボっている現場を宮本さんに目撃ドキュンされたら即刻死刑ですからね。
もう執行猶予も付きませんよ。

しかしですね、トイレに行こうとして休憩スペースの横を通ったら肝心の宮本さんが死んだ魚のような目をして一人でイスに座っとるんです。

おいおい、あんたがサボってどうすんだよ!

「管理人君も少し休まないかい?」

初日とは別人のようにやつれた顔。
もうオーラが全く感じられない。
空腹で死にかけている小鳥でももう少し元気だろうというレベル。
おまけに「はぁ~、疲れた~。」を連発して、負のオーラに巻き込もうとしてくるんですよ。
これじゃこっちまで疲れるじゃねぇーか!

この時ピンときましてね。
忘れてはならないのは、宮本さんは査察の人間という事なんです。
おそらくこれは罠ですよ罠。
演技です。

自分はいかに仕事をサボるかに情熱を注ぐような人間で、その結果、上司の送別会で皆で色紙にメッセージを書いてプレゼントしようってなった時に自分にだけその色紙が回って来ないという残念な扱いになっていますから、それはもうプロ野球で例えたら背番号が3ケタくらいあるようなよく分からない選手みたいになっていますから、上からしたら自由契約という事実上の解雇にしたいはずなんです。
しかし、一方的に解雇するのは法的な問題も発生してしまう。
なので、何か正当な理由とその証拠を得たいはずなんです。

そこで考えられたのがこの策なのだろう。
宮本さんは管理人さんを休憩スペースに誘い込んでサボらせて、その瞬間に「はいクビ。」という4文字のファイナルジャッジを下そうと狙っているに違いありません。

なんて汚い大人なんだ!
そこまでしてクビにしたいのか!

しかし、そうはいきませんよ!
何が何でも生き残ってやる!
このデスマッチ、受けて立とうじゃありませんか!
絶対負けねぇーぞ!

この日から管理人さんと宮本さんの水面下でのバトルが始まった。
文字通りクビを賭けた戦いだ。

翌日も宮本さんはやたらと話し掛けてくる。
決まって「はぁ~、疲れた~。」という、こちらも疲れてサボりたくなってしまうような、暗示とも言える言葉で攻めてきます。
エレベーターで一緒になった時なんてもうマンツーマンですから、逃げ場なしのデスマッチですよ。

とにかく宮本さんのペースに飲まれたら負けだ。
サボっていると判断されてクビにする理由を与えてしまう。
一時も気が抜けないバトルが何日も続きました。


そんなある日、この勝負に決着を付ける大事件が起こった。

その日もいつものようにオシッコをしにトイレに行ったんですけど、入った瞬間にスゲェー強烈な臭いがしたんですよ。
で、何気なくドアが半開きになっている個室の方に視線をやったんですけど、そしたらもうね目を疑いましたよ。

とその前に、ここからちょっと汚い話しになるので、もしお食事をしながらご覧になられている方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。
お食事中の方は今直ぐ大盛りでおかわりして下さい。
この記事をおかずにしてモリモリと食べて下さい。

で、話を戻しますとですね、半開きになった個室に目をやったんです。
そしたらですね、その個室にはうんこがぶち撒けられていたんですよ。
これが常軌を逸したぶち撒け方で、何をどうやったらこんなになるのか全く理解不能なんです。
文章では伝わらないと思うんですけど、本当に悲惨な状況で地獄絵図みたいになっとるんですよ。

これはもうね、テロですよテロ!
もう官房長官も壇上に上がって「極めて卑劣な犯行である。」と遺憾の意を表明するレベル。
日常は非日常へと一変した。

あまりの惨状に尿意はすっかり治まり、自分は脱兎の如くトイレを後にしました。
で、どうして良いのか分からなかったんですけど、とりあえずこの惨状を同僚の渡辺君に伝えましてね。
そしたら、渡辺君ったら仲間を集めだして「よし!見に行こう!」とか言いやがるんです。
こいつ頭おかしいんじゃねぇーか?
まあ勿論自分も再び行きましたよ。

いい年こいた大人が皆で仕事中にうんこ見に行っていますからね。
この会社もう終わりだよ!

そして、後輩の入沢君が推理をし始めるんです。

「このトイレは大勢が使用するから犯人の特定はまず不可能だろう。しかし、経緯ならば推理が可能だ。おそらく犯人は限界に近い状態だったので、ズボンを下ろした時の一瞬の気の緩みで一気に漏らしてしまったのだろう。これは事故だ。」

あー、これ自分も小5の時に経験があるから分かるわ。
子供の時って学校でうんこするのって、人類の八つ目の大罪みたいな扱いをされるじゃないですか。
6時間目の体育のサッカーで漏らしそうになったんですけど、学校で出来なかったから家に帰るまで我慢していたんです。
で、ダッシュで家のトイレにゴールインしてズボンを下ろしたらその瞬間に出ちゃいましてね。
モノは全然ゴールインしてなかった。
もうPKを外した選手みたいに頭を抱えながらその場に崩れ落ちた。

そんな泣きたくなるような出来事がフラッシュバックしたのはさておき、トイレの惨状を目の当たりにして皆PTSDになる寸前だったので、休憩スペースに退避して心を落ち着かせました。
まあ5人もいると話に花が咲いちゃうんですよね。
仕事も忘れてコーヒー片手に談笑ですよ。
皆で仲良くサボタージュです。

そしたら、なんか知らないオジさんがやって来ましてね。

「君たち仕事はどうしたのかな?」

本部の査察の人だったわ。

この後、上司と査察の偉い人に呼び出されてこっ酷く怒られました。

横一列に整列させられてスマップの謝罪放送みたいになってた。

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唯一違う点を挙げるとすれば、この場にいる5人全員、ジャニーズとは程遠いブサイク面だという事だろうか。
渡辺君なんてロバみたいな顔してるし。

説教は一時間近く行われ、「青いイナズマ」ではなく上司の「怒りのイナズマ」が降り注ぐのでした。


ちなみに、宮本さんは仮面を被った査察でも何でもなく、ただのやる気のないオジさんでした。
何でも、以前務めていた会社をリストラされたらしい。
なるほどね、クビになった理由が分かるような気がするわ。

自分も宮本さんみたいにクビにされないよう気を付けよう。

この日から仕事をサボっているのが周囲にバレないよう、真人間の仮面を被るのでした。

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